
マンションを購入しようと思っているけど、上の階の足音がうるさかったらどうしよう… 逆に子供がいるけど、下の階の人が神経質な人だったらどうしよう…なんて心配な方もいらっしゃると思います。
実際に国土交通省が発表しているマンション総合調査によると、マンション住まいのトラブルで「居住者間の行為、マナーをめぐるもの」が 55.9%と最も多く、具体的内容については、「生活音」が 38.0%で一位となっております。
そこで今回は、マンションの騒音トラブルで、訴訟にまで発展した事例の中でも、上の部屋の子供の足音が下の階に響いてうるさいという、最も典型的な事例をご紹介します。
訴訟に至る経緯、判決内容、裁判でのポイントなどを解説しています。
実際の判決事例をもとに、マンション住まいでのマナーの大切さと、マンションの防音性能がいかに大切かわかりますので、マンションを購入する際は、生活音のマナーに気を付けるとともに、防音性能の高いマンションを選びましょう。
マンションの騒音トラブルで訴訟にまで発展した事例
子供の騒音について、下の階の人の慰謝料請求が認められた事例
平成19年10月3日 東京地裁での判決
訴訟になるまでの経緯
主な登場人物は以下の4人です。
Aさん 下の階の住人 (訴えた人)
Aさんの奥さん (騒音問題で、精神的に悩み不眠症等になる)
Bさん (上の階の住人 小学校入学前の幼児がいる)
Bさんの子供 (小学校入学前の幼児で、途中から保育園に通う)
舞台は、昭和63年築のマンションで、このマンションの床は日本建築学会の遮音性能基準をやや下回る水準の構造(床のコンクリートの厚さは150mm)で、3LDKのファミリー向けのマンションです。
Aさんが奥さんと、平成8年にこのマンションを購入して住んでいたところに、平成16年2月頃Aさんの上の階の部屋に、Bさん一家が賃貸で引っ越してきました。
Bさんが引っ越してくる前の8年間は、Aさんは騒音に悩むことはありませんでしたが、Bさんが引っ越してきてからは子供の走ったり、飛び跳ねるような足音がするようになり、騒音が酷くなりました。
Aさんは、まず管理人に相談したところ、管理組合でもそれを取り上げるようになり、管理組合からマンション全戸に音の問題、特に子供の騒音を抑えるようにとの注意書きが配布されました。
しかし、騒音は改善されなかったので、Aさんは再度管理人に相談し、Bさんの家のポストに騒音に配慮してもらいたいとの手紙を投函しました。
これに対しBさんは、末尾に謝罪文言を記載はしているものの、Aさんが天井を突いたことを非難する内容の手紙を、Aさんに投函するという応酬にでました。(本当にAさんが天井を突いたかどうかは不明)
Aさんは翌月、Bさんの家を訪ね話し合ったが、Bさんは乱暴な口調で突っぱねました。
その後、マンションでAさんとBさんが会うことがあり、再度配慮を求めたところ、Bさんは「努力はしているが、これ以上は無理。Aさんはうるさい。」等の返事をされる。
再度Aさんに相談された管理組合は、騒音に配慮するよう掲示板に掲載したり、注意文を全戸に再度配布するなど行った。
あまりにうるさいときには、Aさんは警察に相談し、警察官が数回マンションを訪れるなどしたが、それでも解決することはありませんでした。
そこでAさんは、機材を購入して騒音を測定したところ、ほぼ毎日音はしており、50~65dBものが多く、Bさんの子供が保育園から帰ってくる午後7時以降、ときには深夜に及ぶことや、長時間連続して音がすることもあることが明らかになりました。
(ちなみに60dB以上の音は、一般的にうるさいとされるレベルで、洗濯機や掃除機などが作動しているときに1m以内にいるようなレベルの音量だそうなので、Aさんが特別神経質な方ではなかったと思われます。)
Bさんの子供が保育園に行っている間は、音がしなかったので、音の原因がBさんの子供の足音であることもはっきりしています。
この証拠をもとに、Aさんは平成17年4月に、Bさんに対して、【騒音の差止めと損害賠償】を求める旨の調停(裁判所で、裁判官などが間に入って話し合いで問題を解決すること)を求めましたが、Bさんはこれに応じなかったため、Aさんは提訴しました。
判決内容とポイント
Aさんが求めたのは、慰謝料200万円・弁護士費用40万円の合わせて240万円でしたが、裁判所は慰謝料30万円、弁護士費用6万円の合わせて36万円の請求を認める判決となりました。
ポイントとしては、騒音の時間と大きさ、Aさんの苦痛の程度、Bさんの対応、マンションの構造が考慮されました。
具体的には以下の通りです。
Aさんの主張が認められた要因
1、Aさんが機材を購入して測定していた騒音記録
いつ(ほぼ毎日)、どれくらいの長さで(午後7時以降~時には深夜まで)、どれくらいの音量だったか(50~65dBという客観的にみてうるさいレベル)がはっきりしており、明らかに問題のある内容だったため。
特に夜間はBさんは、子供に騒音をださせないようしつけるのが当然であるとのこと。
2、Bさんの対応が不誠実だった
Bさんは床にマットを敷いたものの、その後も音はしており、それ以外に何か対策をしたかも不明
Aさんとの話し合いにも、「これ以上の対応は無理、Aさんはうるさい」など改善する気もなく、対応が極めて不誠実だったこと。
3、Aさんの奥さんが、不眠症になった
Bさんの家の騒音により、精神的にも悩み、実際に体調が悪くなるという事態も発生していること。
損害賠償額が減額された要因
1、マンションの構造
このマンションは、そもそも日本建築学会の遮音性能基準によれば、一般的な遮音性能よりやや劣る水準の構造であったこと。
そもそも音がしやすいマンションだった。
2、マンションの間取り
このマンションの間取りは3LDKのファミリー向けなので、裁判所としては、子供がいて多少足音等がするのは、仕方がないとのこと。
ちなみに、判決がでたのは平成19年10月3日でしたが、Bさんは平成17年11月17日に退去しています。(調停を起こされたのは、平成17年4月8日)
まとめ
ご紹介した事例は、上の部屋の子供の足音が下の階に響いてうるさいという、最も典型的な事例です。
マンションは共同住宅ですので、全く音をたてないというのは無理がありますが、実際に裁判になり慰謝料請求が認められるのは、どのような場合なのかという参考になったと思います。
マンションの騒音トラブルに関する訴訟のポイントは
1、騒音の大きさと、時間
実際に測定器で、いつどれくらいの音がするのかデータがあるのが非常に重要です。
判決内容には、測定器の種類だけでなく、測定方法等についても記載されています。
音の大きさは少なくとも50dB以上はないと、うるさいと認められない可能性があります。
また、夜間音が長時間続くのは、問題となる可能性が高いです。逆に言うと、昼間だけ音がする場合、人が起きていて活動しているから、多少音がするのが普通と裁判所に判断されたかもしれません。
2、被害者の苦痛の程度
実際に、騒音のせいで不眠症など診断されていると、被害が認められる可能性が高いです。
逆にうるさいだけだと、被害の程度を慰謝料という金額に表しづらいかもしれません。
3、被疑者の対応や態度
今回の件では、Bさんはカーペットを敷く対応をしたみたいですが、それ以外には特に何もせず、Aさんに対する態度も悪く、話し合いにも応じなかったのが、問題視されています。
Bさんが誠実な態度と、音が出ないような工夫をもっとしていれば、判決は違ったものになっていたかもしれません。
(もしそうしてたら、騒音自体発生してなかったかもしれませんが)
4、マンションの構造
私が注目しているのは、このマンションの構造です。
まずマンションの上下階の音は、床のコンクリートの厚さ(スラブ厚)の影響を強く受けます。このマンションは昭和63年築で、スラブ厚は150mmしかありませんでした。遮音性能は一般的なものより劣る構造です。
ちなみに現在の新築マンションでは、200mm以上あるのが普通で、物件によっては300mm以上あるマンションもあります。
防音性能の高いマンションの特徴を知りたい!という方向けに解説している別の記事がありますので、ご興味のある方は是非そちらもご覧くさい。
リンク>>騒音トラブルに悩みたくない!防音性能の高いマンションの選び方
また、マンションの間取りが3LDKのファミリータイプでした。
一般的な感覚では、このような場合、だからこそ生活音に気を付けましょう!となりそうですが、裁判所の判断は違います。
遮音性能の低いマンション・子供が暮らすようなマンションでは、多少音がするのは普通のこと。との見解です。
実際に、このマンションは音のしやすいマンションだったと言わざるを得ないと思います。
もしBさんの子供が音をだしていたのが、昼間だけだった場合や、話し合いにキチンと応じ、謝罪するなど誠実な態度をとっていたら、Aさんの主張は認められなかったか、慰謝料がかなり減額されていた可能性があります。
マンションの騒音トラブルに巻き込まれたくないなら、
子供がいる方は、生活音に気をつけること。(特に夜間)
騒音に悩まされたくない方は、防音性能の高いマンションを選んだり、最上階など上に人のいない部屋を選ぶこと
これらが重要です。