
住宅ローンの本審査が通らなかったら、手付金が返ってくるのか心配...
手付金が返ってこなくてトラブルになって困っている...
家の購入の売買契約書にローン特約があれば、すぐに手付金が返ってくると思っていませんか?
ローン特約があっても、なにかしら理由を付けられて手付金が返ってこないトラブルが起こることがあります。
家の購入の場合、手付金と言っても数百万円払うのが普通ですので、万が一返ってこないと経済的なダメージは大きなものになります。
そこで今回は、家の購入時の売買契約書にローン特約があるのに、手付金が返ってこないで訴訟トラブルになった事例をご紹介したします。
訴訟に至る経緯、判決内容、裁判でのポイントなどを解説しています。
実際の判例をもとに、ローン特約の重要性やローン特約を利用した契約解除のポイントがわかりますので、家の購入で契約解除する際のトラブルを避けることができます。
そもそも住宅を購入するときの、【手付金】とは?
家を購入するときに払う手付金を、売買代金の一部を前払いしているだけだと思っている方が多くいます。
そういった役割もあるのですが、手付金には他にもって重要な役割があるんです。
不動産売買の手付金とは、厳密に言うと【解約手付】というものになります。
解約手付とは、契約時に手付金を払った側(購入する人)は、手付金を放棄することで契約解除が可能になります。
逆に、契約時に手付金を受け取った側(売却する人)は、手付金を倍にして返すことで契約解除が可能になります。
これは業界独自のルールなどではなく、民法という法律に記載されている法律行為なんです。
民法第557条には、以下のように記載されています。
買主が売主に手付を交付したときは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を現実に提供して、契約の解除をすることができる。
ただし、その相手方が契約の履行に着手した後は、この限りでない。
最後に記載されている通り、買主が代金の全額を支払い完了するか、売主が物件を引き渡した場合は、契約の履行に着手した後になるので、手付解除による売買契約の解除はできなくなります。
不動産売買の際には、手付解除にならなくてもいいように、ローン特約があるのが普通
不動産は高額なため、現金一括で購入する人はほとんどいません。
基本的に住宅ローンを利用して、家を購入します。
つまり、家の売買契約を行っても、ローンの審査に落ちてしまうと、購入者はお金を払うことができなくなってしまうのです。
銀行は、売買契約前にローンの仮審査はしてくれますが、これはあくまで仮の審査で、本審査と言われる正式な審査は、不動産の売買契約を結んだ後でなければ行ってくれません。
まぁ、仮審査で審査が通った場合、本審査で落ちることはほとんどないのですが、稀に落ちる人もいます。
実際に私が仲介会社で働いていたときに、本審査で落ちた人がいました。
住宅ローンの審査に落ちてしまったときに、手付金が返ってこないとなると、みんな怖くて家を購入することができません。
それはさすがに可哀そうだし、家が売れなくても困るので、手付解除以外の方法として特別に、住宅ローン特約を契約書に記載するのが一般的です。
住宅ローン特約とは、住宅ローンの審査に落ちた場合は、売買契約を解除して手付金も返してもらえる特約です。
ローン特約があるのに手付金が返ってこないで、訴訟トラブルになった事例
手付解除の条文を見ると、一見シンプルでそれほど揉めることは少なそうに見えるかもしれませんが、住宅ローン特約に細かい条件が追加されることで複雑化して、トラブルになることがあります。
手付金返還請求が、認められた事例
平成28年11月22日 東京地方裁判所での判決
訴訟になるまでの経緯
主な登場人物
Aさん 住宅の買主
B社 住宅の売主(不動産建売業者)
Aさんは、平成30年1月21日に都内某所の建売住宅を、B社から仲介会社を挟まず直接購入し、売買代金は7,380万円、手付金は300万円とする売買契約を締結しました。
契約には住宅ローンの本審査が通らなかった場合に備えて、ローン特約が記載されていました。内容は以下の通りです。
・借入先銀行名
・融資金額 7,380万円
・融資承認期日 平成30年2月19日
・契約解除期限 平成30年2月21日
契約解除条件
融資承認取得期日までに、融資の全部または一部の金額につき融資が得られないとき、または否認されたとき、買主は売主に対し、契約解除期日までであれば、本契約を解除することができる。
※ 契約解除条件に、住宅ローンの借入申込期限が記載されていません。
通常は、売買契約前にローンの事前審査を行い、結果を見てから売買契約を締結しますが、この事例では事前審査の結果がでたのが、売買契約後の2月2日でした。
おそらく建売業者のB社が、Aさんをせかして契約したものと思われます。
通常は、住宅ローンの事前審査の結果も出ていないのに売買契約を結ぶことは、ありえません。
売買契約を締結後、通常はすみやかに本審査申込をします。
しかしこの事例では、事前審査の結果がでた2月2日にB社の担当者は、「数日中に銀行から、事前審査の結果の通知書と正式審査の案内が届きます。」とだけAさんに伝え、住民票や所得証明など本審査に必要な書類のことなどを何も伝えませんでした。
さらにB社の担当者は、Aさんが自分で銀行の本審査手続きを行っていると思い、何らサポートもせず2週間経過しました。この時点で2月16日ですので、融資承認期日まで3日しかありません。
2週間たってからやっと、B社の担当者は住宅ローンの本審査のサポートを行い、Aさんも必要書類等をすぐに揃えました。
しかし、融資承認期日の2月19日までに、ローンの正式な承認が得られなかったため、AさんはB社に対して、電子メールでローン特約にもとづく契約解除を伝えました。
翌日、Aさんは電子メールと同内容の通知書をB社に送付したうえ、電子メールで手付金を返還するよう催促しましたが、B社がこれを拒否しました。
Aさんは、手付金を取り戻すべくB社を提訴しました。
判決内容と解説
Aさんは、既に払った手付金300万円と遅延損害金の支払いを求め、裁判所はAさんの請求を認める判決をだしました。
B社の主張
主張1:事前審査の承認を得ており、実質的な融資能承認を得ている
これは、業界の人間からしたら言い逃れ以外の何物でもないと思います。事前審査が通っても、本審査に通らななければ融資が受けられないのは常識です。
この事例では、本審査のときに住民票や所得証明を提出しているようなので、事前審査はあくまで簡易的なものだったと予測されます。
事前審査に通った人が、本審査で落ちる要因について解説した記事もありますので、興味のある方は是非そちらもご覧ください。
裁判所も、事前審査では融資承認がおりたとは言えないと、判断しています。
主張2:Aさんが速やかに融資の申込手続きをしていない
この事例の売買契約書のローン特約には、融資の申込期限が記載されていません。したがって、速やかな融資の申込手続きがなされることを、契約解除の要件としてみることはできないと、裁判所は判断しています。
主張3:Aさんが契約解除したのは、ローンの審査とは関係ない理由
B社は、Aさんが両親や知人などから購入を反対されて心変わりしたためであり、ローンの審査とは関係がないから、ローン特約による解除は認められないとの主張した。
しかし、そのようなことは確かめようがないし、現にローン特約の条件を満たしています。
トラブルになった要因
トラブルになった要因としては、ローン特約の内容、ローン審査のタイムスケジュール、B社のサポート体制があります。
ローン特約の内容
今回の売買契約に記載されたローン特約の内容は、一見すると細かく記載されているようですが、融資の申込期限が記載されていません。
申込期限が記載されていないので、この事例のように融承認期日の直前まで、審査申込していなくても問題ありません。
また、事前審査の結果さえでていないのに、ローン承認期日が1ヶ月しかありません。おそらくB社は、いつも機械的にローン承認期日を契約日から1ヶ月に設定していたと思われます。
事前審査の結果もでていない状態でしたので、ローン承認期日を1ヶ月半~2ヶ月に伸ばしておくべきでした。
ローン審査のタイムスケジュール
通常、不動産の売買契約を行う場合、住宅ローンの事前審査の結果がでてから売買契約を締結します。なぜなら、まさにこの事例のようにトラブルになりかねませんし、審査に通らず契約解除となった場合、誰も得をしないからです。
この事例では、事前審査の結果は売買契約締結後に判明しています。
おそらくB社は、Aさんの年収などを聞いて勝手にローンも問題ないだろうと判断し、契約に至ったと思われます。
まともな建売業者や仲介会社であれば、家を買えるかどうかわからない相手に家を売らないので、事前審の結果を確認する前に、売買契約を締結することなんてありえません。
売買契約締結から、融資承認期日まで1ヶ月見ているようですが、事前審査の結果がでた時点で残り17日になっています。普通は本審査だけで1ヶ月見ます。
ここから本審査用の書類を用意して、銀行に申込して、本審査してとなると、かなりスケジュールがタイトです。
これらが、融資承認期日までに住宅ローンの承認を得られなかった理由の一つです。
B社のサポート体制
この事例でAさんには、早急に審査を申込む義務があるのではないか?という信義則違反の有無についても争われました。
裁判所としては、そもそもAさんは一般人であり、住宅ローンについて詳しいわけではないこと。Aさんは、本審査に必要な書類や面談の必要性を認識してからは、速やかに対応したことを理由にAさんに責任はないとしています。
それに対し、B社の担当者は、本審査手続きについてAさんに丸投げし、2週間も何もサポートしなかった部分が問題点とされています。
実際にB社が、必要書類をAさんに事前に伝え、銀行との間にたって密にコミュニケーションをとっていれば、このスケジュールでも融資承認期日までに回答を得られた可能性があります。
まとめ
この事例のように、ローン特約をもとに契約解除しているにもかかわらず、手付金の返還でトラブルになる場合があります。
不動産の売買で、手付金を返してもらえないパターンは、手付金を受け取った売主側が、既に手付金を他で利用してしまっている場合が多いです。
一般人の売主の場合、何かを買ってしまったり、不動産業者が売主の場合は、事業経費に使ってしまうことがあります。
その場合、裁判で争うしかありません。
ローン特約による契約解除は、ローン承認期日までに承認が得られないこと、契約解除期日までに申し出ることが、必ず必要です。
このようなトラブルに巻き込まれないために、ローン特約の注意点について解説した記事もありますので、興味のある方は是非そちらもご覧ください。
特に、家の購入を控えている人は必見です!
>>不動産売買契約書のローン特約について、4つの注意点を解説
建売業者や仲介会社から渡された売買契約書を、何も見ずに契約してしまうことは非常に危険です。この事例のようにトラブルに巻き込まれないように気を付けましょう。