東京都心5区のオフィス賃料と、空室率が、商業地の不動産価格にどのような影響を与えるのか、統計データを基に調査してみました。
東京都心5区とは、千代田区・中央区・港区・新宿区・渋谷区のことを指します。
結果としては、商業地の価格は賃料と強い相関関係がありましたが、空室率とは弱い相関関係しかありませんでした。
また、オフィス空室率 ⇒ オフィス賃料 ⇒ 商業地の価格の順で変化していくことがわかりました。
< 引用データ >
・オフィス賃料・空室率
三鬼商事㈱さんが公表している、オフィスマーケットデータのデータを引用させて頂いております。
各時系列データは、毎年12月時点の数値を引用しています。
・商業地の地価
国土交通省が公表している、公示地価のデータを引用しています。
詳しい内容については、以下で解説します。
東京都心の商業地地価・オフィス賃料・オフィス空室率の推移
東京都心の、商業地の地価の推移
以下のグラフは、1990~2020年までの、東京都心5区商業地の平均公示地価の推移を表しています。
バブル期は、1㎡ 1,800万円近くありましたが、その後暴落。
1997年頃から2004年頃まで、横ばいで推移し、
その後、2004~2008年頃まで上昇しましたが、
リーマンショックが起きたため、下落。
2014年から2020年まで、アベノミクス効果で上昇しております。
バブル崩壊前の高値は、2020年の地価に対して、約2.6倍もありました。
東京都心の、オフィス賃料の推移
以下のグラフは、1990~2020年までの、東京都心5区の平均オフィス賃料(坪単価)の推移を表しています。
商業地の地価同様に、バブル期は坪4万円以上ありましたが、その後暴落。
2004年に底を打ちました。
その後、2005~2008年頃まで上昇しましたが、
リーマンショックが起きたため、下落。
2014年から2019年まで、商業地の地価同様、アベノミクス効果で上昇しております。
しかし、2020年は、コロナウイルスの影響でテレワークが推進され、下落しました。
バブル崩壊前の高値は、2020年の賃料に対して、約2倍もありました。
東京都心の、オフィス空室率の推移
以下のグラフは、1990~2020年までの、東京都心5区のオフィス空室率の推移を表しています。
バブル期はオフィスが全然足りない状況にあり、オフィス空室率は1%以下でしたが、その後はバブル崩壊により空室率が急上昇しました。
1995~1997年にかけて、今度は改善しましたが、1998年にまた、上昇(アジア通貨危機の影響?)
その後はITバブル崩壊まで、減少しましたが、ITバブル崩壊により、2001~2003年まで空室率が上昇。
その後、2005~2008年頃まで2%台まで改善しましたが、リーマンショックが起きたため、再度9%近くまで急上昇。
2012年から2019年まで、アベノミクス効果などもあり低下しております。
しかし、2020年は、コロナウイルスの影響でテレワークが推進され、急激に空室率が上昇しております。
バブル崩壊前は、2020年の空室率に対して、約4%も低い空室率でした。
東京都心の不動産価格と、オフィス賃料・空室率の関係
3つのデータが揃ったので、それぞれの関係性をみていきます。
東京都心の、商業地の地価とオフィス賃料の関係
まずは、商業地の価格とオフィス賃料の関係をみていきます。
折れ線グラフの形も似ていましたが、散布図を見ると、オフィス賃料が上がるほど商業地の価格も上昇しています。
相関係数は、0.96となり、非常に強い正の相関性を示しました。
不動産価格の評価の仕方の一つに、収益還元法という方法があります。
この方法は、その土地に建物を建てて貸した際に得られる賃料から、逆算して土地の価格を決めます。賃料が変化すると、収益還元法で算出される価格も変化するので、上記結果についてははじめからある程度予想できました。
しかし、賃料が15,000~25,000円の範囲では、少しばらけているようにも見えます。
これに関しては、投資家の期待利回りが時期によって異なったことが要因の一つだと思われます。
2004年、2010年、2015は賃料がともに約17,500円でしたが、商業地の価格はそれぞれ、約310万、約430万、約480万円と全く異なります。
この時の長期金利の年間平均は、それぞれ1.51%、1.17%、0.36%となっており、期待利回りが下がっていったことで、同じ賃料水準でも不動産価格が上昇したと思われます。
東京都心の、商業地の地価とオフィス空室率の関係
次は、商業地の価格変化率とオフィス空室率の関係を見ます。
散布図を見ると、かなりばらけているのがわかります。
しかし、細かく見ていくと
空室率が0~3.5%と低い状態では、不動産価格は上昇傾向を示し、
3.5~5.5%の範囲では、上昇・下落どちらも見られる。
5.5%以上になると、不動産価格は下落傾向を示しています。
相関係数は、ー0.43となり、弱い負の相関関係と言えます。
一応空室率が上がると、不動産価格は下がる傾向にあるが、影響度は以外に低いという結果になりました。
これは、折れ線グラフを重ねてみると、よくわかります。
二つのグラフは、異なる形をしているのがわかります。
東京都心の、オフィスの賃料変化率と空室率の関係
最後に、オフィスの賃料変化率と空室率の関係を見てみます。
散布図は、右肩下がりになっており、空室率が上昇すると賃料が下落しやすいのがわかります。
細かく見てみると
空室率が0~4%未満の低い状態では、賃料は上昇傾向を示し、
4~5.5%の範囲では、上昇・下落どちらも見られる。
6%以上になると、賃料は下落傾向を示しています。
相関係数は、ー0.72となり、強い負の相関関係と言えます。
空室率は賃料には、影響するという結果になりました。
商業地価格・オフィス賃料・空室率では、どれが一番初めに変化するのか?
今までの内容で、商業地価格・オフィス賃料・空室率には相関関係があることがわかりましたが、何が一番初めに変化して、他の数値に影響を与えるのかみていきます。
下の表は、それぞれの数値を記載しているもので、
ピンクの数値は前年比で上昇していた場合
水色の数値は前年比で下落していた場合
を表しています。
これを見ると、一番初めに空室率が変化し、それと同時または1~2年後に賃料が変化し、それと同時か1年後に商業地の価格が変化しているのがわかります。
つまり順番としては、以下の順番で影響して価格が変化していきます。
1,オフィス空室率 ⇒ 2,オフィス賃料 ⇒ 3,商業地の価格
まとめ
調査結果で重要な部分をまとめます。
東京都心の、商業地の地価とオフィス賃料には、非常に強い正の相関性(相関係数0.96)がある。
商業地の地価とオフィス空室率は、弱い負の相関関係(相関係数ー0.43)で、直接的には影響度は低い。
オフィス賃料と空室率には、強い負の相関関係(ー0.72)がある。
具体的には以下のような傾向がある。
< オフィス賃料と空室率の関係 >
空室率が0~4%未満の低い状態では、賃料は上昇
4~5.5%の範囲では、上昇・下落どちらも見られる
6%以上になると、賃料は下落
波及効果により、オフィス空室率 ⇒ オフィス賃料 ⇒ 商業地の価格 の順で変化していく。
空室率が変化してから、2年前後経過して地価が変化する。
コロナウイルスの影響で、2020年はオフィス空室率が上昇して、賃料も下落しています。
地価はまだ上昇していますが、この調査結果に基づくと、2021~2022年には、商業地の地価も下落に転じる可能性が高いと思われます。
しかし、不動産価格には他にも様々な要因が影響しています。
当サイトでは、他にも様々な要因と不動産価格の関係を調査していますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。